手形の事故とその処理



手形の訂正、抹消

 手形を振出すときに、支払期日や受取人の名前を間違えることがあります。手形の訂正や抹消の方法については、法律上は特にきまりはありません。二本線を引くとか、紙を貼るとかいろいろです。また、訂正した箇所に振出人の印鑑を押さなくてもかまいません。
 実務上は、変更前の記載がわかるように二本線で抹消し、そこに振出人の印鑑を押しておくのが普通です。そうでないと変造した手形と間違われやすく、支払銀行に支払ってもらえないことがあります。

訂正、抹消は無条件にはできない

 振出人の訂正印だけで訂正できるのは、手形を受取人に渡す前だけです。手形をいったん受取人に渡した後であれば、受取人の同意が必要です。またその手形が第三者に裏書譲渡されていた場合は、受取人とその第三者の訂正についての同意が必要です。つまり、他人の権利や義務に影響を及ぼさない事前の訂正や抹消は自由にできますが、影響を及ぼす事後の訂正、抹消については、その他人の同意が必要になります。

 なお、手形金額の訂正は許されません。手形金額を間違えた場合は、新しい手形を作りなおさなければなりません。


手形を破いてしまって場合

 手形をうっかり破いてしまったり、焼けこげをつくったり、インクなどで汚してしまった場合、その手形の効力はどうなるのでしょうか。

破れかたが小さい場合
 手形の破れた部分をつなぎ合わせて、セロテープなどで貼りあわせて、もとの形にもどせば、有効な手形として手形上の権利行使ができます。
 この場合、多少文字が不明になる箇所ができても、手形文言が理解できる程度に貼りあわされていれば有効です。つなぎ合わせて箇所に振出人の契印を押してもらう必要はありません。手形を破いた場合、ともかく上手に原形に戻すことが大切です。

こなごなに破れた場合
 こなごなに破れてしまって原形に戻すことができないか、なんとか元の形に戻しても手形要件の主要な文言、つまり金額の数字や支払期日の日付、支払地などが正確に読めないような場合は、もはや手形として成り立ちません。
 その場合、手形振出人が好意的に手形を再交付してくれれば問題有りませんが、法律的には、手形を管轄する簡易裁判所に、手形が破損したことを理由に公示催告の申立をし、除権判決を受けなければ手形代金を請求することはできません。

手形が焼けたり、インクなどがついた場合
 この場合も、破いた場合と同じ扱いになります。つまり、手形としての要件、文言が判読でき、手形の同一性を損なわないものであれば有効な手形として手形金を請求できますが、汚損が激しくて判読不能であれば紛失として取扱い、除権判決を求めることになります。


手形を盗まれたり、紛失して場合

1.盗難、紛失のときの対策
 手形を盗まれたり、紛失するという事故はよくあります。手形を盗まれたり、紛失しても、それによって直ちに手形上の権利を喪失するわけではありません。しかし、盗難、紛失した手形が、その手形が盗まれたり、紛失した手形であることを知らない第三者(善意の第三者)に渡れば、もとの所持人は手形上の権利を失うことになります。また、善意の第三者から支払を求められれば、振出人は支払わなければなりません。

 手形を紛失するなどの事故が発生したら、急いで次の手続をすることです。

1 まず銀行へ連絡する。
 すぐに、銀行へ、紛失した、あるいは盗まれたことを連絡し、その手形の支払のストップを依頼します。
 自分が支払をする手形の場合、つまり、自分が振り出してから受取人に手形を渡す前に事故があった場合は、自分で銀行に「手形類支払差止依頼書」(一般に「事故届」といわれる。)を出します。
 一方、受け取った手形が事故にあった場合は、まず、手形振出人に連絡し、振出人から支払銀行に事故届を出してもらい、その手形の支払を差し止めてくれるよう依頼します。

2 警察に被害届を出す。
 銀行に連絡するとともに、警察に手形の紛失届あるいは盗難届を出します。何よりも早く紛失手形を発見し、また犯人逮捕をしてもらって手形が他人に渡るのを防ぐためです。

3 裁判所に公示催告の申立をする。
 なくしたり、盗まれた手形を無効にする手続です。公示催告の申立をし、除権判決を出してもらうと、その手形は無効になり、なくした人はその判決により手形金を請求できます。

2.公示催告の申立と除権判決

 公示催告とは、裁判所が「これこれの手形を所持している人は、○月○日までに裁判所に届け出なさい。もし届け出ないと、その手形は無効になります。」と公示することです。

 公示催告は、手形、小切手を紛失したり、盗まれたり、滅失した場合に限って認められます。

 申立は、手形の支払地を管轄する簡易裁判所に行います。その際に、銀行の手形の交付証明書、振出人の振出証明書、警察の紛失届出証明書や盗難証明書などを添付しなければなりません。

 裁判所は、申立に理由があると判断すれば、申立人の氏名および手形の内容とともに、その手形の所持人は期日でに裁判所に届け出て手形を提出すること、もし、と届出がないときは手形の無効を宣言することがあることを、官報に掲載するとともに、裁判所の掲示板に掲示します。官報への記載日と公示催告日の間は少なくとも6ヵ月の間をおくことになっています。

 公示催告の期間中に、手形を持っている人から届出がないときは、申立により除権判決を受けることができます。この判決により手形は無効となり、その旨が官報に掲載されます。公示催告の申立から除権判決をもらうまで8ヵ月ぐらいかかります。

公示催告期間内に手形の所持人から届出があったとき

 公示催告期間内に手形の所持人から届出があったときは、届け出た人と申立人との間で、いずれが法律上正当な手形の権利者かを裁判で争うことになります。

除権判決を受けると

 除権判決を受けると、その手形は無効になり、ただの紙切れになってしまいます。除権判決の後で、誰かがその手形を事情を知らずに入手しても、たとえ善意でも手形上の権利を行使することはできません。
 一方、申立人は、紛失したり、盗まれた手形にかわって、除権判決の判決正本によって、手形金を振出人などに請求できることになります。

手形の紛失と新聞公告

 新聞にはときどき「手形無効公告」として「これこれの手形は盗まれたから無効とします。」といった公告が掲載されていることがあります。しかし、新聞に公告を出しても手形が無効になることはありません。せいぜい善意の人が事故手形を取得すことのないよう、注意を喚起するのに役立つだけです。
 また、新聞で公告したからといって、その公告以後に、その手形を受け取った人が悪意(事故手形であることを知って受け取ったとみなされること。)であることにはなりません。

手形の偽造と振出人、裏書人の責任

 権限のない人が他人の名義をかたって手形を振出したり、裏書をしたり、保証したりすることが「手形の偽造」です。
 手形の偽造には、本人以外の者が、本人の印鑑を盗用して手形を振出す場合と、よく似た署名をし、よく似た印鑑を使用して手形を振出す場合とがあります。

手形を偽造した者の責任

 手形を偽造した者は、有価証券偽造罪として刑法上の責任を負うほか、民法上の不法行為として損害賠償責任を問われます。
 ところが、手形の偽造者は、手形上には自分の名前を書きませんので、「手形に署名してない者については、いかなる責任も問えない。」ということになって、「手形上の責任」は無いことになります。

手形を偽造された者の責任

 手形を偽造された人は、その手形が偽造手形であることが証明できれば、その手形について何の責任も負わないのが原則です。そこで、手形法上は、偽造手形を受け取った人は、たとえ善意でも、偽造手形の振出人に対して手形金の支払を請求できないことになっています。

 しかし、実務上は、いろいろな点に注意しなければなりません。まず、銀行との当座取引約定書での手形引き落としの規定です。そこでは、手形の流通をすすめるために「手形に押印された印影が銀行に届け出た印鑑のものと相違ないと認めれば支払う。」旨の取り決めがあります。

 銀行としては相当の注意を払ってみたが、銀行に届けられた印鑑と違わないような印鑑が押してある場合には、支払銀行として支払ったとしても責任を負わないということです。このように銀行が通常の注意義務をつくし、かつ偽造手形であることを発見できずに支払った場合、銀行は責任を負わないので、事実上振出人の責任になってしまいます。

 また、使用者責任の問題にも注意しなければなりません。多くの手形偽造事故をみると、偽造者と偽造された者との間には何らかの関係がある場合がほとんどです。信頼して印鑑を預けていたとか、肉親だと思って安心していたとかですが、圧倒的に多いのが会社の従業員による会社振出手形の偽造です。偽造者が会社の従業員の場合、たとえば経理の責任者などが勝手に会社の手形や代表者の印鑑を盗用して自己の利益のために手形を振出したような場合には、会社はその支払について責任を負わなければなりません。

偽造手形に裏書きした人の責任

 振出人の名前や印鑑が偽造である手形について裏書きしたり保証した場合、あるいは振出人は正当な権利者であっても最初の裏書人が偽造(裏書の偽造)した手形にさらに裏書きして第三者の譲渡した場合などのように、不正な方法による振出しや裏書のあとで、法にのっとった正当な処理を行った者の責任はどうなるかということです。
 これらの行為が偽造という不正な手形行為を前提としたものなので無効と思われがちですが、手形面に署名(記名・押印)をした以上、それをした人は手形の文面に従うことになっており、偽造の事実の知不知にかかわらず手形上の責任は免れません。このことを「手形行為独立の原則」といい、手形に特別に認められたもので、取引の安定、権利者の保護の目的から大切なものです。

 つまり、手形の所持人から、手形債務の履行を求められたときは、自分が正当に裏書している限り、無権利者の振出した偽造手形であるからとか、前の裏書が偽造だからといって、支払義務は免れないということです。


手形の変造と振出人、裏書人の責任

手形の変造とは

 A社の振出した金額100万円の手形が、1000万円になって支払呈示された。調べてみると、A社は100万円の手形を振出してそれをB社に交付し、B社が裏書きしてC社に渡るまでの間に何者かによって1000万円と書き替えられ、C社は1000万円の手形として受け取り、それをD社に渡したことが分かった。

 このように、手形の記載事項が権限のない者によって変更された手形のことを「変造手形」という。
 手形の偽造は、署名(記名・押印)、つまり手形行為者に関する問題であるのに対し、手形の変造は、手形の記載事項、つまり手形行為の内容に関する問題です。

 振出人や裏書人が変造手形についてどれだけの責任を負うかは、手形に署名したのが変造の前か後かによって異なります。

 変造前に、振出人として、または裏書人として署名している場合には、変造前の手形の記載内容に従って責任を負います。変造後の文言については関知しないのですから当然です。

 変造後の裏書人は、変造された内容に従って責任を負わなければなりません。裏書きするときに手形の内容を分かって裏書きしているので、これも当然です。

偽造手形、変造手形が支払呈示さてたとき

 偽造手形や変造手形が取立にまわされてきた場合、振出人は支払を拒絶するとともに、支払銀行に対して異議申立の手続をとるよう依頼します。
 この手続は、支払期日から記算して3営業日の営業時間中に行い、申立にあたっては次の資料を添付しなければなりません。

a 告訴状の写し及び同受理証明書、または警察への被害届の写し及びその受理証明書
b 事実関係を証明する振出人の陳述書
c 当座勘定取引約定書の写し
d 届出印鑑の写し
e 偽造、変造手形の写し

 以上の資料のうち、aは警察署における発行手続に要する日数を考慮して、交換日から起算して10日目までに提出すればよいことになっています。

 また、一般に支払拒絶する場合は、手形金額と同額の異議申立預託金を支払銀行に積まなければならないのですが、偽造、変造を理由として支払拒絶する場合は、異議申立書に前記の資料を添付することにより、預託金は不要となっています。