個人再生手続

 

(1)民事再生手続とは

 
 個人債務者の経済生活の再建を目的として、平成13年4月からは、民事再生法が改正され個人債務者再生手続がスタートしました。これにより小規模零細事業者や非事業者たる個人でも民事再生手続を利用できるようになりました。「個人再生手続」とも呼ばれています。

 個人とは、事業(商売)をやっている事業主だけでなく、給与所得者(いわゆるサラリーマン)も含みます。

 個人再生手続を利用することにより、破産せずに債務の整理を行うことができるようになりました。債権を大幅にカットして計算し直した金額を原則三年間の分割で支払えば、あとの債務は免除されます。

 また住宅ローン破産の防止の観点から、新しく住宅ローン特則が設けられました。一定の要件を満たすことにより住宅を手放さずに住宅ローン以外の借入先だけを債務整理することができるようになりました。

 

 個人再生手続は次の2つのものがあります。

  1. 小規模個人再生
  2. 給与所得者等再生

 

(2)対象者

  小規模個人再生 給与所得者等再生
個人事業主 ×
会社員
公務員
農家 ×(但し兼業農家は○)
年金生活者
失業手当受給者 × ×
不動産仲介業者 ×
専業主婦 × ×
パート従業員

  ただし、最低でも三年間で100万円を返済することになるので、月2万7,000円ほど返済しながら生活できる収入がなければ、再生計画が立てられないので対象者とならないことになる。 

(3)小規模個人再生の対象者


小規模個人再生は、個人事業主を念頭に置いた手続ですが、サラリーマンも利用できます。

将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること。

収入があることが絶対条件です。その収入は、3月に1回以上の割合で収入を得る見込みがあることが目安です。

 

(4)給与所得者等再生の対象者


 給与所得者等再生手続はいわゆるサラリーマン向けの手続です。

小規模個人再生手続の要件を満たす債務者のうち、給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれることが必要です

収入の変動の幅が小さいというのは、年収ベースで5分の1(20パーセント)程度を基準として考えればよいでしょう。20パーセントの変動幅に収まれば、変動の幅が小さいということになります。

給与所得者等再生手続が利用できる人は、小規模個人再生手続も利用できます。ただし、給与者等再生手続がだめなら小規模個人再生手続を求めるとする申立ができない地域もあります。

(5)再生債権の総額

担保権が設定されていない債権、担保権が設定されていても担保権の行使によって満足を受けられない債権の総額が5000万円以下でないといけません。借金の合計が5000万円以下でなければならないということです。この金額には次のものは含まれません。

@ 住宅資金貸付債権の全額
A 別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額
B 再生手続開始前の罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金または過料(共益債権ま  たは一般優先債権であるものを除く)

 また、所有する総財産評価額よりも債務総額が少ない場合、この制度を用いることはできません。

 可処分所得の2年分よりも債務総額が少ない場合、給与所得者等再生手続は利用できません。

 

(6)最低弁済額(3年間で最低でも支払わなければならない金額)

小規模個人再生手続の最低弁済額

最低弁済額

1 債権総額が100万円未満の場合               債権総額
2 債権総額が100万円以上500万円未満の場合      100万円
3 債権総額が500万円以上1,500万円未満の場合    債権総額の5分の1
4 債権総額が1,500万円以上3,000万円未満の場合  300万円
5 債権総額が3,000万円以上5,000万円以下の場合  債権総額の10分の1

清算価値評価額(清算価値保証原則)

 所有する総財産の評価額が、上記の最低弁済額よりも高い場合、総財産評価額と同じだけの金額を返済する計画を立てる必要があります。これは、破産手続を取ったときよりも、債権者に不利益を強いることはできないということです。財産があるのに財産はそのままで債務だけ大幅カットするということはしないということです。財産があるときは財産を処分して支払なさいということです。

評価の対象となる財産

自営業者以外の人

 現金、預貯金、貸付金、積立金、退職金見込額の8分の1、各種保険の解約返戻金、有価証券、電話加入権、自動車・バイク(査定価格、ただしローンが残っている場合はローンの残高を差し引いた金額)、購入価格が20万円以上の高価な動産(生活必需品を除く)、不動産(時価から担保されている債権残高を差し引いた金額)、敷金、相続財産

自営業者

上記のものに加えて、動産(什器備品等)、売掛金(回収可能なもの)、受取手形(決済可能なもの)

 
給与所得者等再生手続の最低弁済額
 

 上記小規模再生手続の最低弁済額、清算価値評価額に加えて、二年間の可処分所得(一年間の収入から公租公課(所得税、住民税、社会保険料)及び家族の生活費を差し引いて算出された金額の直近の2年分。なお、家族の生活費は法律で定められている。)のうち最も高い金額を返済する必要がある。

 可処分所得が高くなると、返済金額は多額のものになる。収入が低い場合、住居費を支払っている場合、扶養家族が多い場合は、可処分所得は低くなります。

 給与所得者等再生手続は、政令により機械的に最低弁済額が算出できるのと引き替えに、債権者の同意が不要であるとされています。

 弁済額が低く抑えられる場合、債権者の半数の同意が得られるのであれば、給与所得者等再生手続ではなく、小規模個人再生手続を選択するということも可能です。(給与所得が高額で可処分所得が多額となる場合、小規模個人再生手続を選択すれば可処分所得は最低弁済額の算出にあたり考慮しなくて良い。)

(7)債権者の同意について

 給与所得者等再生手続では、手続上債権者の同意が要りません。せっかく申立をしたのに債権者の同意が得られず手続が終わってしまうということがないのです。

 小規模個人再生手続では、再生計画案について債権者の過半数の反対がある場合には、計画は認可されません。また、再生計画案について債権額の過半数の反対が有る場合には、計画は認可されません。

 なお、何も言わなければ賛成したものとみなされます。

 
 なお、認可計画案というのは、この先何年間で(通常は3年間)、いくらを払っていくのかという弁済計画案のことです。

(8)住宅資金特別条項とは

 平成13年改正民事再生法の目玉として住宅資金特別条項(住宅ローン特則)があります。これを利用すると住宅ローンは原則全額支払いを続けて、残りのサラ金や商工ローンなど高利の借金のみ3年間で上記の最低弁済額を支払えばよいことになります。

 

適用の要件

住宅資金貸付特別条項を定めるには、次の要件を満たすことが必要です。

1.自己の居住の用に供する住宅があり、床面積の2分の1以上がもっぱら自己の居住の用に供されていること。

2.住宅資金貸付債権を有すること

ア 住宅の建設・購入・改良あるいは敷地・借地権の取得に必要な資金を借り入れたこと。

イ 上記借入金について住宅に抵当権が設定されていること。(借入金の保証人の求償権についての抵当権でもよい。)

ウ 住宅に上記抵当権以外の抵当権が設定されていないこと。

エ 住宅以外の不動産に共同抵当権が設定されている場合、その不動産に上記抵当権以外の抵当権が設定されていないこと。(後順位のものであれば法律上不可能、先順位のものであっても計画認可が困難となる。)

オ 保証会社が保証債務の全部を履行した日から6ヶ月を経過した日までの間に再生申立をすること。

 つまり、住宅ローン債権の抵当権以外にサラ金からの借入による担保権がついていると、この特則を利用することができません。

住宅資金貸付債権を担保する担保権は根抵当権でも適用がある。


※ 上記オの巻き戻しの要件は次の二つです。

 ○ 保証債務を履行した者が保証会社であること。
 ○ 保証会社が保証債務を履行した日から6ヵ月を経過する日までの間に再生手続開始の申立てをすること。

3.再生債権者が住宅資金貸付債権を法定代位(民法第500条)により取得していないこと。

例えば、再生債務者の親族等が個人保証をしていて、その保証人が代わりに弁済したような場合、住宅ローン債権は金融機関から保証人に移りますが、この場合に、保証人である親族を再生債権者として、住宅資金特別条項を定めることはできません。

 

住宅資金特別条項の内容

1 期限の利益回復型

(1)再生計画期間中、約定通りの元利金を支払う。

(2)再生計画期間経過後、約定通りの元利金を支払い、それに加えて、
イ 再生計画認可確定までに支払期限が到来した未払いの元本
ロ 該当元本に対して再生計画認可確定後に発生する約定利息
ハ 再生計画認可確定まで発生した未払いの利息
ニ 再生計画認可確定までに発生した未払いの遅延遅延損害金
を支払う。

 本来の住宅ローン契約における約定返済を継続するとともに、これまでの不履行分を一般弁済期間中に支払うことによって、債務不履行による期限の利益を回復させることを許容するものです。

2 弁済期延長型

(1) 支払金額

イ 残存元本の全額
ロ 残存元本に対する再生計画認可確定後に発生する約定利息
ハ 再生計画認可確定まで発生した未払い利息
ニ 再生計画認可までに発生した未払いの遅延遅延損害金

(2) 弁済期間の延長

 約定の最終弁済期から10年を超えない範囲、かつ、70才を超えない範囲で弁済期を延長できる。

 返済期間の延長はできても、債権額のカットは許されないということです。

3 元本据え置き型

(1) 再生計画期間中の支払金額

イ 元本の一部(法律上は1円でもよいことになっている。)
ロ 残元本に対する約定利息

(2) 再生計画後の支払金額

イ 残存元本から上記イによって支払った元本を差し引いた元本
ロ その元本に対する再生計画認可確定後に発生する約定利息
ハ 再生計画認可確定まで発生した未払い利息
ニ 再生計画認可までに発生した未払い遅延遅延損害金

(3) 弁済期間の延長

 約定の最終弁済期から10年を超えない範囲、かつ、70才を超えない範囲で弁済期を延長できる。

 一般弁済期間中は、他の再生債権と住宅ローン債権の両方を弁済しなければならないので、一般弁済期間中の、住宅ローン弁済額を減額して、返済しやすくします。

4 債権者同意型

 住宅ローン債権者の同意がある場合には、上1から3までの規定に関わらず、約定最終弁済期から10年を超えて期限を猶予することやその他の変更をすることを内容とする特別条項を定めることができます。

 

 以上の方法は、従来の返済方法では生活の再建はできない場合の返済方法変更による住宅資金特別条項案ですが、住宅ローンに関しては返済が滞っておらず、これからも返済していけるのであれば、住宅ローンに関しては従来のまま返済を続けていく、「従来のまま型」でということになります。

注意すること

 少なくとも、再生計画期間中、他の債権者への支払に加えて残存元本に対する利息を毎月支払う必要があります。残存元本に対し発生する毎月の利息金額を計算し、その利息金額と再生期間中に支払う他の債権者への毎月の支払額を合算し、その合計金額を支払う能力がない場合には、住宅資金特別条項を含めた計画を立てることはできないことになります。

個人再生申立の費用

 ここでは、長野地方裁判所上田支部で本人申立の場合を示します。

 申立費用      収入印紙 1万円

 予納金       再生委員の報酬及び官報公告料  22万円(弁護士以外の申立の場合)。

            弁護士による申立の場合は、官報公告料のみでよい。

 長野地方裁判所上田支部では、本人の申立(司法書士が関与した場合も含みます)の場合、必ず再生委員が選任されます。再生委員は弁護士に限られます。弁護士による申立の場合は再生委員は選任されませんので、予納金は官報公告料のみで2万円です。

 予納郵便切手   500円    6枚

             430円    4枚

              80円    (債権者数)×2+10 枚

              20円    8枚

              10円    (債権者数)×2 枚

 

 当事務所の場合、着手金4万円、手続報酬14万円の合計18万円ですが、予納金等すべて併せると42万円強かかることになります。他県の地方裁判所では、司法書士が関与した場合、再生委員を選任しないところもかなり有るようですが、長野地方裁判所上田支部の現状は、司法書士関与でも必ず再生委員を選任する取り扱いとなっていますので、予納金の関係で、司法書士にたのむより弁護士にたのんだ方が安くできるかと思われます。(弁護士のなかには全部で35万円ほどでやってくれる方もおられるようです。)

 個人再生の場合、全く専門家に頼らず自分で申立をするには、可処分所得の計算や、再生計画案の作成等かなり難しいこと、並びに提出書類(基本的には破産手続と同じで、申立人及び同居人の全資産を証する書類が必要である。)の量が多いこともあり、無理だと思われますので、専門家に相談される方が良いと思います。

 ただ、この手続の場合、どうしてもネックになるのは、22万円の予納金を用意しなければならないことでしょう。

 個人再生でも、クレジット会社、金融機関との関係では約7年間はブラックになることは破産の場合と変わり有りません。破産との違いは、債務を減額して弁済すること、手続後債権者から給料等の差押えを受けることがほとんどないこと。従って、勤め先に知られなくて済むこと。ぐらいです。以後7年間はクレジットカードを作れない、金融機関からお金を借りられない、ローンを組めないことは破産の場合と同じです。

 ただし、住宅ローンが残っている住宅(住宅ローン以外の担保になっていないもの)を所有している場合は、住宅資金特別条項を使うことにより住宅を失わなくて済むというメリットはあります。

 いずれにしても、どの手続を選択したらベストなのかは、専門家に相談されるのが良いと思います。